旅日記北海道編2004 集結(6)




第6日目 富良野、美瑛、登別



1 朝湯で人生を語り合う


 テントサイトにて 富良野の朝

富良野に朝が来た。テントから出た俺は冷たく清浄な空気を思いっきり吸い込んだ。朝焼けが山々を染めている。
 「うぃっす。」松本とユキノリが欠伸をしながら起き出して来た。「それにしても寒いな〜。」俺達は昨夜行った「吹上露天の湯」で温まることにした。流石に早朝は誰も来ていないようだ。昨日は暗くて見えなかったが、湯は確かに無色透明だった。
 「やった!貸し切りだ!!」俺達はすぐさま露天風呂に飛び込んだ。昨夜は入らなかった、上の湯船はけっこう熱めだった。「熊の湯」に匹敵するかもしれない。

 吹き上げ露天にて 熱い湯

 「すげ〜温まるな。」松本が目を細めている。「昨日は落ち着いて入っていられなかったからな。」知らない人との触れ合いも楽しいが、やっぱり温泉は人が多すぎると風情がない。

 「おはようございます。邪魔するよ。」突然知らないおっちゃんが階段を降りて来た。「おはようございます。どうぞ。」俺達は笑顔で迎えた。
 「昨日の夜も来たんだけど、人が多くて入りづらくて。朝まで駅前で寝てたんだよ。」おっちゃんは定年後、一人で温泉を巡っているという。「いいですね〜。」気ままな温泉巡りか。羨ましい限りだ。湯に浸かりながら、俺達はおっちゃんと旅について、温泉について、しばらく語り合った。
 「じゃあ、ありがとな〜。」おっちゃんは礼を言って立ち去った。

 「定年後に一人旅…。羨ましいような、寂しいような…。」おっちゃんが去ったあと、松本がしみじみ言った。「俺は結婚したいとは思わんけど。老後に一人ってどうなん。どっちが幸せなんだろうな。」松本は「結婚したくない」というのが口癖だ。
 「じゃあ、松本が結婚したら、今日会ったおっちゃんのことを思い出すのかな。結婚観を変えるきっかけを作ったおっちゃんとして。」ユキノリが笑って言う。「案外、あのおっちゃんがきっかけで、松本は早く結婚するかも知れんな。」俺達はのぼせるまで温泉で語り合った。

 快晴 晴れた山々を望む

 空は晴れ渡っている。今日は美瑛を通り、最終的に登別温泉に向かうつもりだ。最後の夜くらい、温泉旅館でゆっくりしようという、旅行前からの計画だった。
 美瑛の丘にある一軒の売店で、トウモロコシ等の簡単な朝食をとる。この店は頼んでいないのに、ポテトフライを揚げてくれ、サービス満点だった。新鮮なトウモロコシは、茹でて塩をかけるだけで抜群に美味い。

 美瑛の風景1 美瑛の風景2

美瑛の売店にて

 俺達は絵葉書のような美瑛の丘を巡った。

 「ここ、学生の時もここ来たよな。」松本がポツリと言った。
 忘れていたが、実際に風景を見ると学生の時の記憶が甦ってくる。卒業しても、またこのメンバーで旅ができるとは思わなかった。

 腹が立つこともある。意見が食い違うこともある。喧嘩をすることもある。だが、友達って奴は本当にありがたい。

 「day after tomorrow」の「lost angel」をBGMに、車は快走する。目指すは登別。俺達三人の旅、最後の目的地だ。





2 最後の夜は呆気なく


目指すは登別。富良野を南下し、海沿いの235号線を西へと車を走らせる。鵡川を通り抜け、苫小牧にさし掛かったところで少し遠回りし、支笏湖方面へ向かう。小雨が降ってきた。途中、おびただしい数の木が倒れ、放置されていた。台風18号の影響である。千歳周辺でこれ程の被害があったとは。痛々しい台風の爪痕を横目に、俺達は支笏湖南岸にある「苔の洞門」に辿り着いた。

 苔の洞門は、樽前山の噴火で流れ出た溶岩が冷えて固まり、数万年の年月をかけて侵食されて出来た渓谷で、岩壁の両側には約30種類の苔がびっしりと生え、独特の風景が見られる場所である。
 洞門へ向かう遊歩道にも倒木が横たわっていた。この遊歩道には熊が出ることもあるという。
 「熊見るぞ〜!」小雨の中、松本のテンションは高い。だが、幸か不幸か熊が出現する事はなかった。

 苔の洞門道中。倒木がある 苔の洞門

 20分程で洞門入口の観覧台に辿り着いた。平成13年の洞門内の崩落のため、現在は観覧台からの見学のみになっている。以前目にした、翡翠色の迷宮のような冒険心をそそられる光景が見られないのは残念だ。いつかまた、洞門内に入ることができるようになるのだろうか。

 午後3時過ぎ、登別温泉に到着した。登別の語源はヌプルペツ、色の濃い川という意味である。今晩の宿は「第一滝本館」。登別を代表する温泉旅館である。因みに第一滝本館の創始者・滝本金蔵氏は、この地に温泉宿を建て、さらに私財を投じて道路を造り、登別温泉の基礎を築いた人物である。

 登別に到着! 第一滝本館

 第一滝本館は想像以上に大きな旅館だった。増改築を繰り返したらしく、少し複雑な構造である。和室に案内されると、早速浴衣に着替えて温泉へ向かう。
 「すげ〜!」ユキノリが絶叫する。広い。兎に角広い。ワンフロア全て温泉である。自慢の「温泉天国大浴場」は1500坪あるという。さらにここでは七つの泉質があるらしい。循環させる事もなく豪快にかけ流しにされている湯は、一体どれ程の量なのだろう。流石は全国でも有数の大温泉である。
 俺達は思い思いに温泉を巡った。一面の窓からは地獄谷が見える。濛々と噴煙が噴き出し、凄い光景だ。遠くの岩場には、キツネらしい動物の影も見える。
 一時間ほどかけて、全ての浴槽を回った。個人的には乳白色でツルツルとした肌触りの「美人の湯」が気に入った。途中、あまりに広いので松本やユキノリとはぐれてしまった。火照った体で脱衣場に出ると、松本とユキノリは茶を飲んでいた。無料で冷茶を飲めるサービスもあり、至れり尽くせりだ。

 温泉の次は夕食である。和洋中華のバイキング形式で、帆立やカニはその場で焼いてくれる。この旅で随分美味いものを食べてきたためそれ程感動はない。それでも目の前にご馳走があればついつい食べすぎてしまう。

 「食った食った〜。」部屋に帰ると既に布団が敷いてあった。温泉に美味い食事。旅はこれだからやめられない。時間は午後9時前である。俺は満腹感から布団に横になった。この後は酒を飲んで、もう一度温泉に行って…。等と考えているうちに俺の瞼は重くなっていった。

 !!!薄明かりの中で突然我に返った。時計を見ると午前3時だ。何ということだ!北海道最後の夜だと思って、セイコーマートで安酒を買い込んでいたのに!松本とユキノリもいびきをかいて寝ている。俺はつけっ放しのテレビを消し、再び布団に入った。



to be continued…


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