旅日記北海道編2004 集結(6)第6日目 富良野、美瑛、登別 1 朝湯で人生を語り合う
富良野に朝が来た。テントから出た俺は冷たく清浄な空気を思いっきり吸い込んだ。朝焼けが山々を染めている。
「すげ〜温まるな。」松本が目を細めている。「昨日は落ち着いて入っていられなかったからな。」知らない人との触れ合いも楽しいが、やっぱり温泉は人が多すぎると風情がない。
「おはようございます。邪魔するよ。」突然知らないおっちゃんが階段を降りて来た。「おはようございます。どうぞ。」俺達は笑顔で迎えた。
「定年後に一人旅…。羨ましいような、寂しいような…。」おっちゃんが去ったあと、松本がしみじみ言った。「俺は結婚したいとは思わんけど。老後に一人ってどうなん。どっちが幸せなんだろうな。」松本は「結婚したくない」というのが口癖だ。
空は晴れ渡っている。今日は美瑛を通り、最終的に登別温泉に向かうつもりだ。最後の夜くらい、温泉旅館でゆっくりしようという、旅行前からの計画だった。
俺達は絵葉書のような美瑛の丘を巡った。
「ここ、学生の時もここ来たよな。」松本がポツリと言った。
腹が立つこともある。意見が食い違うこともある。喧嘩をすることもある。だが、友達って奴は本当にありがたい。
「day after tomorrow」の「lost angel」をBGMに、車は快走する。目指すは登別。俺達三人の旅、最後の目的地だ。 目指すは登別。富良野を南下し、海沿いの235号線を西へと車を走らせる。鵡川を通り抜け、苫小牧にさし掛かったところで少し遠回りし、支笏湖方面へ向かう。小雨が降ってきた。途中、おびただしい数の木が倒れ、放置されていた。台風18号の影響である。千歳周辺でこれ程の被害があったとは。痛々しい台風の爪痕を横目に、俺達は支笏湖南岸にある「苔の洞門」に辿り着いた。
苔の洞門は、樽前山の噴火で流れ出た溶岩が冷えて固まり、数万年の年月をかけて侵食されて出来た渓谷で、岩壁の両側には約30種類の苔がびっしりと生え、独特の風景が見られる場所である。
20分程で洞門入口の観覧台に辿り着いた。平成13年の洞門内の崩落のため、現在は観覧台からの見学のみになっている。以前目にした、翡翠色の迷宮のような冒険心をそそられる光景が見られないのは残念だ。いつかまた、洞門内に入ることができるようになるのだろうか。
午後3時過ぎ、登別温泉に到着した。登別の語源はヌプルペツ、色の濃い川という意味である。今晩の宿は「第一滝本館」。登別を代表する温泉旅館である。因みに第一滝本館の創始者・滝本金蔵氏は、この地に温泉宿を建て、さらに私財を投じて道路を造り、登別温泉の基礎を築いた人物である。
第一滝本館は想像以上に大きな旅館だった。増改築を繰り返したらしく、少し複雑な構造である。和室に案内されると、早速浴衣に着替えて温泉へ向かう。
温泉の次は夕食である。和洋中華のバイキング形式で、帆立やカニはその場で焼いてくれる。この旅で随分美味いものを食べてきたためそれ程感動はない。それでも目の前にご馳走があればついつい食べすぎてしまう。
「食った食った〜。」部屋に帰ると既に布団が敷いてあった。温泉に美味い食事。旅はこれだからやめられない。時間は午後9時前である。俺は満腹感から布団に横になった。この後は酒を飲んで、もう一度温泉に行って…。等と考えているうちに俺の瞼は重くなっていった。
!!!薄明かりの中で突然我に返った。時計を見ると午前3時だ。何ということだ!北海道最後の夜だと思って、セイコーマートで安酒を買い込んでいたのに!松本とユキノリもいびきをかいて寝ている。俺はつけっ放しのテレビを消し、再び布団に入った。
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