旅日記北海道編2004 集結(4)第4日目 釧路湿原、根室、野付、知床、屈斜路湖、開陽台 1 根室半島で朝食を 午前6時。天気は曇りで、時折小雨がぱらつく。細岡展望台で朝を迎えた俺達は、周辺を散策した。昨夜は真っ暗で、周囲の様子は全くわからなかったが、展望台は駐車場の目の前だった。
曇天ながら、展望台から見る釧路湿原は壮大で、同じ日本とは思えない景観である。日本の全湿地面積の60%を占めているというのも頷ける。
今日最初の目的地は根室半島である。車を真っ直ぐ東へ走らせ、根室の街を目指した。ただ、今回の目的は日本最東端の納沙布岬ではなく、根室の名物エスカロップである。
どりあんは喫茶店だけあって朝8時から営業している。店内は暖炉もあり、シックでどこか懐かしい雰囲気である。開店直後ということで、お客も少ない。
待つこと10分程で、エスカロップが運ばれてきた。エスカロップは確か、フランス語で「薄い肉」のことを意味していると聞いたことがあったが、結構肉厚でボリュームがある。
「いや〜!食った、食った。根室まで行った甲斐があったな。」松本は上機嫌だ。これから根室半島を海沿いに北上し、野付半島に向かう予定である。
「野付温泉浜の湯」。俺が野付観光の際に利用する大衆浴場である。外観は簡素な銭湯風だが、アルカリ性単純温泉とナトリウム塩化物泉の2つの源泉が湧き出る豪華なもので、さらに露天風呂まである。それでも料金の方は370円と銭湯並だ。洗い場の水道から出る湯も温泉らしく、少し濁った色で、つるつるとした肌触りだ。存分にシャワーを浴び、洗体してから温泉に浸かった。いかにも海の近くといった感じのナトリウム塩化物泉は塩味が強く、俺好みだ。地元の漁師さんらしい体格のいいオヤジ達が湯に浸かりながら豪快に放歌している。身近にこんないい温泉があるなんて幸せなことだな。小雨に打たれながら入る露天風呂も非常に心地いい。
さらに北上し、野付半島の入口に差し掛かった時メールが入った。以前、俺の旅日記を読んでメールをくれた群馬の男子大学生H野さんからである。今回、H野さんは初めて北海道を旅するということだが、その日程の一部が俺の旅と重なっていたため、都合がついたら会いませんか?とメールをもらっていたのだ。H野さんはこれから野付に向かうという。上手く時間が合うといいのだが。旅人同士の出会いも旅の醍醐味である。
雨が強くなってきた。俺のお気に入りであるフラワーロードも、この天気ではどこか精彩を欠く。雨天のトドワラはきっと、寂寥感を通り越しているだろう。予想はついていたが、松本とユキノリは野付半島は初体験なので、俺は黙って二人に付き合うことにした。
トドワラは、トドマツが海水や潮風の影響で立ち枯れた林のことだ。近年は風化がかなり進み、「トドワラ跡」と称される事もある。ここ数年、俺は連続でトドワラを訪れてきたのだが、今年は果たして…。
トドワラへ向かう遊歩道はさながら小川の様になっていた。水はけが悪いため、歩道部分が、延々と続く水溜りになっていたのだ。
俺達は雑談する事もなく黙々と歩き続け、ようやくトドワラに到着した。ここまでの道中でジーンズの裾がかなり濡れてしまった。
俺達は木製の遊歩道を思い思いに散策した。
メールが着信した。H野さんからである。どうやらトドワラ付近に到着したらしい。それはさておき、こんな地の果てにも電波が通じることに驚いた。俺は松本とユキノリに先に行くと言い残し、遊歩道を駆け足でUターンした。
「野付半島ネイチャーセンター」の入口でH野さんと待ち合わせをする。群馬の大学4年生、H野さんとは初対面だが、俺がHPで顔を晒しているため、向こうから声を掛けてくれた。H野さんはなかなかの好青年だ。今回、マイカーを利用して二週間程北海道を周るという。野宿や車中泊、ライダーハウスを利用しながらの北海道一周。H野さんの撮影した写真を見せてもらいながら、"俺にもそんな時期があったな…"と懐かしい気持ちになった。本当は食事でも御一緒したかったが、松本達を待たせているためここでお別れした。
駐車場に戻ると、松本とユキノリが車内でうたた寝していた。想像以上に、雨のトドワラ散策がこたえたらしい。俺も別海牛乳を飲みながら暫し休息した。
再度、知床へと車を北上させる。昨日、一度行った知床に、再び戻るというのは一見無駄な動きのように思える。実際、俺の一人旅ならこのような動きはしないだろう。だが今回のような仲間との旅なら、無駄もまた一興だろう。兎に角、今日は知床へ行ってトド肉を食べ、鮭の遡上を見ようということになった。
他の客を観察しながら定食を待つ。隣の外国人ファミリーは、普通の丼物や、魚等の定食を食べている。何も知らずに海馬屋に入ったのだろうか?待つこと10分程で、海馬陶板焼定食が到着した。メインのトド肉と一緒に、ピーマン、玉葱、生姜等の野菜が香ばしく焼けている。なかなか美味そうだ。他は小さな帆立の味噌汁に惣菜、漬物が付く。
食後のデザートは「昆布ソフト」だ。ソフトクリームの上に昆布の粉がトッピングされ、昆布製のスプーンですくって食べる。意外なことに結構美味だ。
続いて今夜の夕食に、鹿カレー、熊カレーの缶詰を購入した。その際、情報収集した結果、鮭の遡上は近くの羅臼川河口で見られるという。俺達は羅臼川に向かった。
車をラウス橋付近に路上駐車し、川に下りてみる。果たして鮭はいるのか?
「すげ〜な〜!」俺達は興奮して川面を見つめた。故郷の川を必死に目指す鮭たち…。中には途中で力尽き下流に流されているものもいる。よく見ると、死骸となって川原に転がっているものもいる。
俺達は無料温泉である羅臼温泉「熊の湯」に向かった。俺は昨年も行っているが、地元の人が管理する清潔な露天風呂である。
周囲が薄暗くなり始めていた。羅臼に近い精肉店で、今夜食べるラム肉や野菜等を購入する。天気は相変わらずはっきりしないが、大丈夫だろうか。俺達は、次の目的地である屈斜路湖を目指した。
知床から一気に屈斜路湖へと向かう。結構ハードスケジュールだが、今の俺達は勢いに乗っていた。屈斜路湖では夜の露天風呂を楽しむつもりである。屈斜路湖付近に着いたのは、午後7時を回っていた。
今回訪れたのはコタンの露天風呂である。ここは屈斜路湖に密接した、昼間なら非常に良い眺めの温泉だ。一応、温泉中央にある大きな岩で男湯、女湯が区別されている。先客に数人の男達がいたが、すぐに出て行ってしまった。これで貸切状態だ。
俺は全裸で露天風呂を出て、ザブザブと屈斜路湖に入って行った。松本とユキノリが仰天している。これだ!これをやってみたかった。露天風呂からすぐ隣の屈斜路湖に飛び込むこと。夜じゃないととてもできない。
温泉でじっくりと温まり直し、服を着る。その時、若い女性の二人組みが現れ、挨拶してきた。「こんばんは〜♪」これから入浴するようだ。「こんばんは。」既に服を着終わった俺達は、挨拶を返し、立ち去るしかなかった。
「………。」(ユキノリ)
コタンを後にした俺達は、屈斜路湖沿いに北上し、摩周湖方面へ向かった。こんな闇夜では摩周湖は全く見えないだろう。予想はついていたが、ここまで来たら寄ってみようという話になった。車の全く走っていない道道52号へと入って行く。
標高が高くなるにつれて、霧で視界が悪くなっていった。ヘッドライトに照らされ、前方は真っ白に輝き数メートル先も見えない。摩周第三展望台は全く視界が利かず、散策は不可能であった。
俺達は今夜の宿泊場所、開陽台を目指した。腹が減ったせいか皆無口である。その時、雨がポツポツと降り始め、次第に大粒になり始めた。恐れていたことが始まったか。 雨は止まなかった。午後10時を過ぎた開陽台は、轟々と唸る強い風雨に晒されていた。駐車場には車は一台も停まっていない。
「ゴゴゴゴゴ…。」風が強く、ガスの火が安定しない。必死に火を庇い、俺達は肩を寄せ合った。奥歯がガチガチと鳴った。
「ななな何なんだ!?こ、この寒さは?」声が自然に震えてしまう。「とと、兎に角、肉焼くぞ、肉。」松本が肉と野菜をジンギスカン風に炒め始める。本当なら上等なラム肉なのだろう。こんな状況でも結構美味い。だが、今は早く食べ終えてしまいたかった。ジンギスカンのタレの中にウドンを入れ、最後の仕上げにする。強い風に混じって、冷たい雨も降りかかってきた。「さささ寒いな〜。はは、早く食うぞ。」ユキノリは勢い余って、ジンギスカンの濃いタレを全部飲み干してしまった。
「ささささ、寒い…。早く寝るぞ。」(俺)
闇の中で一人目を開き、考える。予定通り、昨日を開陽台泊にしていれば良かったのか。予定変更が裏目に出たか。どっちにしても今回の旅では、星空の開陽台には縁がなかったらしい。なかなか難しいな。これが仲間同士で旅するということだ。楽しいこともあれば、意見がぶつかり、思い通りにならないこともある。 |