旅日記北海道編2004 集結(5)第5日目 開陽台、釧路、帯広、富良野 1 釧路の中心で「うめぇ!」と叫ぶ、再び
午前6時起床。開陽台は深い霧に包まれていた。星空に続いて朝日も駄目だったか。霧の開陽台展望台を三人で登る。全く視界の利かない開陽台というのもある意味貴重かもしれない。
出発の準備をしているうちに少しずつ霧が晴れてきた。ここぞとばかりにミルクロードで記念撮影する。学生の時、同じアングルで写真撮影したのを思い出した。
今朝は、朝一番で釧路に向かい、土産をまとめて買ってしまう予定だ。ついでに、昨日の夕食がお粗末だった分、釧路の朝食でリベンジするつもりだ。
「えっ!?そんなにどうするんだ?」大量な荷物を抱える俺に、ユキノリが疑問を投げかける。
「うめぇ!!」当然ながら、文句無しに美味い。脂の乗った秋刀魚の刺身、目の前で焼く牡蠣に帆立。再度、釧路に来た甲斐があったというものだ。
満腹になったところで「和商市場」に移動する。一通り物色した後、毎年利用する店で予定通りロイズのチョコレート等を大量に買う。「毎年ここで買ってるんですよ〜。」と言うと、消費税分をまけてくれた。
松本は数万円分ものカニとイクラを、ユキノリは大きなタラバを購入していた。二人とも満足そうである。
それにしても朝から食べ過ぎたか?これから帯広に向かい、甘味三昧の予定なのに。今日はとことん食べてやると心に誓いながら、俺達は車を発進させた。
帯広へと車を走らせるうちに、空は次第に晴れ渡っていった。この旅初めての快晴である。今日は食べることが中心なので、天候はあまり関係ないのだが。皮肉なことだ。
「畜生〜!こんなに晴れやがって。今日、開陽台泊なら良かったのに!!」松本は悔しさのあまり絶叫している。
帯広で俺達が最初に向かったのが、菓子・仕出し「朝日堂」である。ここはドーナツが安くて美味しい店だ。目立たない場所にある、小さな店である。ドーナツは60円から80円。ケーキも100円からと非常に安くて驚いた。
カスタード(80円)と生クリーム(70円)のドーナツを一つずつ購入し、車内で食べる。美味い!正直、驚いた。衝撃を受けたという表現が正しいかもしれない。これ程美味いドーナツは初めての経験だ。カスタードは甘みが抑えられ、軽い舌触りである。生クリームの方もふわりとした生地にクリームが溶けあい、口の中で一瞬のうちに消えてしまった。
帯広の駅前に到着した。今日の昼食は帯広名物・豚丼にしようと決めていた。豚丼の元祖といわれる「ぱんちょう」に並ぶ。既にすごい行列だ。北海道好きの俺だが、実は「ぱんちょう」は初めてだ。恥ずかしながら、数年前までは「ぱんちょう」ではなく「ばんちょう(番長)」と勘違いしていた程である。豚丼の元祖といわれながら、最近はあまり評判が良くないようだが、果たして…。
最近は「味が落ちた」等言われる事が多いが、以前の味を知らない俺は比べようがない。だが、もっと安い値段で味噌汁等も付く他の店が増えてきた中で、いつまでも老舗という暖簾に頼っていてはいけない気がする。確かにお客は多い。だが、観光客等の一見さんがほとんどだ。並んでまで食べる地元の人はそうはいないだろう。有名になる事の弊害を目の当たりにした気がした。
続いては食後のデザートだ。帯広銘菓として有名な「六花亭本店」へと歩いた。ここでのお目当ては、本店でしか売っていない「サクサクパイ」(100円)である。このサクサクパイは賞味期限が3時間しかないため、実際に足を運び現地で食べる以外方法はない。 腹も満たされたところで、一風呂浴びようということになった。帯広駅の南西にある温泉銭湯「たぬきの里」に向かう。帯広は街中で良質の温泉に入れるのだ。
大浴場のある地下に降りていくと、独特の香りがした。ここ十勝周辺の温泉は、世界でも珍しいモール温泉である。モール温泉は、長年堆積した植物が発酵して噴き出したものだ。
洗濯物を乾燥機にかけている間、松本は洗車しに行った。俺とユキノリは休憩所でぼんやりと時間をつぶしている。
松本が戻ったので、半乾きの洗濯物を持って車に戻った。全部乾燥させていては時間が惜しい。車内にロープを張って下着等を干すと、むさ苦しい車が尚更むさ苦しくなった。
ナイタイ高原牧場は上士幌町が運営している日本最大の牧場である。その面積は約1700ヘクタールにも及ぶ。
車を停めると心地良い風が吹き抜けた。「気持ちいいな〜!」俺達はしばし、この広大な牧場の中に立ち尽くした。ここは本当に日本なのか?見渡す限りの阿寒の山々や十勝平野、群れる牛達。
俺達は然別湖に向かっていた。然別湖は大雪山国立公園唯一の自然湖で、自然湖の中では道内で最も高い位置にある。
予想はしていたが、いくら月夜といっても然別湖は闇の中だ。近くの駐車場に車を停めると、キツネが二匹も寄ってきた。無責任な人間に餌付けされたキツネだ。ここは心を鬼にして無視しなければ。さて、今回然別湖付近に来たのは他に目的があった。
然別湖付近には「鹿の湯」という無料露天風呂がある。野営場近くの川原に作られた、かなり雰囲気のいい温泉らしいのだが。道道85号から山道に抜け、長く真っ暗なダートを進み、野営場に辿り着くとそこには…。
何と!進入禁止である。台風18号の影響で倒木があり、9月26日までキャンプも入浴もできないらしい。こんな所まで台風の爪痕が及んでいるとは。悔しいが仕方がない。俺達は記念写真を撮り、鹿の湯を後にした。
それにしても、張り紙をするなら林道の入口付近にしてくれたらいいのに。現地まで行かないと、使用できないとわからないのは不親切だ。北海道でこういったことは何度か経験しているが、道民特有の大らかさなのだろうか?
俺達は遅い夕食をとるため富良野に向かった。しばらく夜道を走り、ドラマ「北の国から」でもお馴染みの郷土料理屋「くまげら」に到着したのは午後9時を過ぎていた。
夜の富良野は寂しい。周辺には店も少なく、くまげらの灯りだけが明々と燈っていた。郷土料理屋というよりは、お洒落な洋食屋といった外観だが、店内は純和風だ。くまげらでの食事は初めてだが、松本は一度来たことがあるという。
「有名店って、行ってみるとがっかりすることが多いけど、ここは当たりだな。」ユキノリが絶賛する。全く同感である。
続いて、有名な無料露天風呂「吹上露天の湯」に向かう。これも「北の国から」で有名になった温泉だ。午前零時に近いのに駐車場には何台も車が停まっていた。駐車場も露天風呂に続く道も、灯りは全くない。露天風呂の方から、ざわざわと話し声が聞えてくる。けっこう人がいるようだ。懐中電灯の明かりを頼りに露天風呂へと向かう。
露天風呂には数組の先客がいた。視界が利かないが、話し声からいずれも若い男女のようだ。白い湯気しか見えない中、湯船に浸かる。いい湯加減だ。ドラマでは白濁させていたそうだが、実際は透明な湯だという。どっちにしても湯の色は暗すぎて見えないのだから関係ないが。
俺達は興奮気味に車に戻った。興奮の理由は、混浴のせいか、星空のせいか定かではないが。今夜は近くのキャンプ場に泊まることにした。暗闇の中、テントを組み立てる。今夜も冷えそうだ。
深夜、俺はあまりの寒さに目が覚めた。十分厚着をしたつもりだったが、まだまだ俺は北海道の寒さを甘く見ていたらしい。テントから顔を出すと、冷たく静まりかえった空気の中、遠くで獣の鳴く声が聞こえた。 |