旅日記北海道編2005 離島(3)





第3日目


1 星観荘の朝
旧・須古頓小学校グラウンドから見た星観荘

観荘の朝は早い。午前6時30分の朝食時間に合わせ、それぞれ起床を始める。俺も5時には身支度を済ませ、早朝の散歩に出かけた。

 島の最北端・「スコトン岬」までは徒歩10分位の道程だ。途中、荒れ果てた学校らしい建物を発見した。廃校になった須古頓小学校だ。寂しげに佇む校舎を横目に、北へと歩く。
 「おはようございます。」途中、何人か星観荘の宿泊者と出会った。俺と同じように、朝食前の散歩と洒落込む人が多いようだ。

 スコトン岬に到着した。早朝なので、当然売店等はやっていない。周囲には人が全くおらず、俺の貸し切り状態である。俺は岬の先端まで駆けて行った。

 スコトン岬に立つ俺 スコトン岬2

 !!!絶景だ。目の前に広がるのは海と小島。あの無人島は「トド島」という。トド島に行くには漁師の船をチャーターせねばならず、また波の状態、客の人数等、多くの条件をクリアーしなければならない、まさに「近くて遠い島」である。いつか行ってみたいものだ。
 海を見下ろすと小船が浮かんでいる。ウニを獲っているのだろう。こうして獲った極上のウニが、宿屋や家庭の食卓を賑わすことになるのだろう。

 トド島が見える ウニ漁の小舟

 宿に帰ると、お待ちかねの朝食時間である。最初の朝は、予め選択していたパン食だ。トーストや自家製カスピ海ヨーグルト等の朝食を食べ終えると、今日宿を離れる人の送別会になる。
送別会の様子
 皆が輪になり、今日帰る人、見送る人、それぞれ挨拶をする。涙ぐんでいる人もおり、俺の目頭まで熱くなってきてしまった。俺はこういったのに弱いのだ。彦さんがギターを片手に、「忘れないで」という歌を歌う。それに合わせ、今日帰る人から順番に輪の中を回り、握手を交わしていく。
 いかん!気が付くと涙目になっていた。見送るだけでこんな状態になっていたら、俺が見送られる時はどうなるんだ!

 こうして送別会は感動的に終了した。毎年、次々と常連客を増やしていく星観荘…。どんどんこの宿の魅力に引き込まれていく自分に気付いた。

 今日は、「森の丘コース」「4時間コース」を歩く予定である。星観荘で用意してくれた弁当(Sサイズ)を受け取り、スターライナーに乗った。星観荘は、それぞれのコースのスタート地点まで送ってくれるのだが、その前にフェリーの見送りにも連れて行ってもらうことになった。今日最初のフェリーで礼文を離れるのは、昨日の夕食時にブラックホールで話をしたおじちゃん、おばちゃん達だ。

 フェリー乗り場で、星観荘流の見送り方を教えてもらう。見送る側は、タラップの下に並び、順番に握手していく。おじちゃん、おばちゃん達と握手を交わし、笑顔で見送る。

 記念撮影 桃岩荘の歌と踊り

 横を見ると、船尾側で「桃岩荘」の人たちが歌って踊っていた。
 「♪ぎんぎんぎらぎら夕日が沈む、ぎんぎんぎらぎら日が沈む〜♪ヘイ!真っ赤っかっか〜空の雲…」
 このユースホステルは、酒も飲まずに朝からこのテンションなのだから凄い。
 さらに、カラフルな紙テープを使って見送りしているのは民宿「なぎさ」である。同じ見送りでも、それぞれの宿ごとに特色があって面白い。

 甲板に立ったおばちゃん達が手を振っている。見送る側の俺たちも、一人ずつ声を掛けていく。「ありがと〜う!いい旅を〜。」俺も声が枯れるまで叫んでいた。

 船の甲板から フェリーが見えなくなるまで

 いよいよ出港だ。船が離れて行くのに合わせ、「行ってらっしゃ〜い!」と声を掛け、船を追いかける。彦さんが星観荘の旗を振り、皆でフェリーが見えなくなるまで手を振り続けた。こんな風に見送られたら、俺はきっと泣いてしまうぞ。

 見送りを終えたら、いよいよ今日の予定を実行に移すだけだ。礼文岳に登るヨッシーさん、「森の丘コース」と「4時間コース」を歩く俺、そして朝一で礼文に来た新たなお客さん達を乗せ、スターライナーは走り始めた。



2 礼文、ひとり歩き @


ターライナーで久種湖の近くまで送ってもらった。彦さんが指差しながら、「森の丘コース」の概要を説明してくれる。去っていくスターライナーに手を振り、俺は歩き始めた。ここからは一人だ。

 「久種湖」は周囲4キロ程の日本最北の小さな淡水湖。水芭蕉の群生地で、春には白い花が咲き乱れるらしいが、今は花らしい物は全くなく、どこか寂しげな景色である。

 久種湖 久種湖付近にて。馬がいる。

 背丈程の草の間を抜け、どんどん歩き続ける。しばらくすると展望台へと続く上り坂になる。段差が中途半端で非常に上りにくい。陽射しが強く、早くも少し汗ばんできた。長い、長い階段をようやく上りきると、涼風が頬を撫でていった。眼下に久種湖が広がる。さらに、遠くには海も見える。海と湖が同時に見える景観に、心が洗われるようだ。
 それにしても、このコースでは結局誰にも会わなかった。日常の煩わしさを忘れて、一人を楽しみたい人にお薦めのコースかもしれない。

 森の丘コースの遊歩道 久種湖と海が見える

 続いて、浜中まで単調な道を歩き、通称・「4時間コース」のスタート地点へと向かう。4時間コースは、浜中から平坦な道を南西に向かい、澄海岬(すかいみさき)から鉄府まで歩き、ゴロタ浜を抜けて、最大の難所であるゴロタ岬を登り、最後に最北端のスコトン岬に向かうというコースだ。

 浜中から澄海岬までは、アスファルトの平坦な道である。礼文島有数の観光地である「澄海岬」まで、多くの車や観光バスが行き交う。この道の少し上にはレブンアツモリソウの群生地が広がっているのだが、残念ながら時期が少し遅かったようだ。土手をレブンシオガマが紫色に染めていた。

 浜中から西上泊までの道 西上泊

星観荘の弁当・Sとタコ串  小さな漁港、西上泊(にしうえどまり)に辿り着いた。ここには売店と駐車場があり、少し歩くと澄海岬(すかいみさき)という観光スポットがある。売店の前は数台の観光バスが停まり、賑わっていた。よく考えると、朝から全く休憩していない。俺はここで昼食と初めての休憩をとることにした。
 売店でタコの串焼きを購入し、星観荘で作ってもらった弁当を開く。焼売にフライ、海苔の佃煮等、シンプルな弁当だが、これがけっこう美味い。

 少し疲れが癒えたところで、俺は澄海岬へと歩き出した。岬へはちょっとした登り坂である。観光バスから降りたばかりのおばちゃん達が「疲れるわね〜。」等と愚痴を言いながら坂を登っている。これ位で文句言うなよ、と内心思いながら俺も続いて歩いていく。

 ………。凄い!俺は海の蒼さに衝撃を受けた。波のない入り江の静かで深いブルー。外海の躍動的なブルー。その対比がとてつもなく美しかった。今までの疲れが吹き飛ぶようだ。道端には、エゾカンゾウが青空と対比をなし、鮮やかな黄色で咲いていた。

 澄海岬付近に咲くエゾカンゾウ 澄海岬に立つ俺

 澄海岬@ 澄海岬A

 俺は再び歩き出した。まだまだ4時間コースはこれからだ。
 澄海岬から道を少し戻り、赤い鳥居を抜ける。ここからはしばらく上り坂だ。礼文島特有の、木の全くない遊歩道だ。身体を前傾しながら少しずつ山道を登っていく。引いていた汗がまた噴き出してきた。この登りはけっこうきつい。

 鉄府へと向かう山道 遠くにゴロタ岬が見える

 「こんにちは。澄海岬はまだ先ですか?」途中、何人も観光客とすれ違い、尋ねられた。俺とは逆に、スコトン方面から南に向かう人がけっこういるらしい。今日は、俺のようにスコトンを目指して歩く人はいないようだ。
 視界が開けてきた。遠くに見えるのはゴロタ岬。あれを登って越えていかなければならないのか。スコトンはまだずっと先だ…。
 少し気が遠くなってきた。



3 礼文、ひとり歩き A


府までの遊歩道は急勾配が多く、思った以上にきつかった。足を止めると、ふくらはぎがプルプルと震えているのがわかる。俺も衰えたものだ。気を取り直してどんどん歩く。遊歩道の両側にエゾカンゾウやレブンシオガマが沢山咲いている。俺の気力が萎えないのは、この心が洗われるような景色のお陰だろう。

 両脇にレブンシオガマ 両脇にエゾカンゾウ

 今度は長い下り坂だ。眼下には真っ青な海が広がり、カモメが飛び交っている。坂は上りよりも下りに気を付けねばならない。俺は慎重に足を進めていった。

 ミヤマオダマキ? 鉄府に着いた

 鉄府に到着した。民家や古びた小屋の立ち並ぶ小さな集落だ。ここを越え、ゴロタ海岸を抜けると、先程遠くに見えていたゴロタ岬に到着する。
 それにしても喉が渇いた。西上泊の売店でお茶を購入してはいたが、ここは一気に炭酸飲料でも飲み干したい気分だ。そう思っている時、目前に自販機が見えてきた。やった!俺は自販機に駆け寄った。
 小銭を入れる。……。小銭は無機質な音を立て、そのまま返って来た。
 !!…俺は三度試したが、やはり小銭は返ってくる。この自販機、現在は使われていないのか!良く見ると、ドリンク類も微妙に一昔前のものだ。畜生!使えないなら放置しとくなよ!!ガックリと来たが、無い物は無いのだから仕方が無い。残念!俺は肩を落として歩き始めた。

 「ゴロタ海岸」に出た。ここでは「穴あき貝」が拾えることで有名な海岸だ。だが、何となく一人で貝殻を探すような気分ではなく、俺はそのまま歩き出した。

 ゴロタ海岸 ゴロタ海岸。向こうにゴロタ岬

 目の前に巨大な岩山がそびえ立っていた。ここが、4時間・8時間コース共に最難関といわれる「ゴロタ岬」である。「岬」なんて生易しい表現は似合わない。それは、まさしく巨大な岩、もしくは山である。正直、一歩踏み出すのを躊躇するような迫力であった。

 「冗談だろ〜?」思わず独り言を発してしまった。だが、ここまで来たら引き返すわけにはいかない。俺は長い階段を、ロープにしがみつくように登っていった。

 階段を上りきった後の坂道も、さらに急である。目の前の坂、あれさえ越えれば…。俺は髪を振り乱しながら登りきった。
 !!!俺は頭を強打されたようなショックを受けた。目の前にもっと高い坂が待ち構えていたのだ。…何なんだ!これは…。そうか。これがいわゆる偽頂上か…。またしても、残念!
 ガックリときたが、ここで足を止めるわけにはいかない。俺は四肢をフルに使って再び歩き始めた。それにしても、このゴロタ岬は曲者だ。正直、二度と登りたくないと思った。

 やがて本物の頂上らしき場所に到着した。やった!息を大きく吸いながら、360度のパノラマを見渡す。素晴らしい景観だ。

 振り向くと利尻富士 利尻富士。遠くに鉄府、澄海岬方面

 南東には利尻富士がそびえている。快晴に加え、全く雲もかからずはっきりと見える。そして、先程通って来た鉄府、澄海岬の方がはるか遠くに見えた。俺はあんな距離を歩いて来たのか。人間、やればできるものだと思った。また、見下ろすと真っ青な海。そして北にはスコトン岬。いよいよ目的地が見えてきた。

 断崖と海 スコトンが見えてきた

鮑古丹の海

 下りの遊歩道には、湧き水が出て、滑りやすい場所もある。俺は慎重に下り坂を降りていった。

 ゴロタ岬を降り切ると、今度はコースが二つに分岐する。ゆったりとした上り坂を上ってトド島展望台を経由するコースと、下り坂から海岸と「鮑古丹(あわびこたん)」の集落を通るコース。どちらも星観荘、そしてスコトン岬へと続いている。彦さんは確か、上のコースがお薦めと言っていた。
 普通なら言われた通り、上のコースに行く所だが。俺は分岐点で足を止め、しばらく考えた。
 澄海岬からは、8時間コースとコースが重なる。もし明日8時間コースを歩くなら、恐らく上のコースを行くだろう。俺は敢えて下のコースを選ぶことにした。

 海岸沿いを歩く。ゴールが近いので、気分的にかなり楽になった。この鮑古丹の海では、アザラシが来ることもあるという。残念ながら、今日はいないようだが。エゾバフンウニの殻

 堤防にバフンウニの殻が落ちていた。恐らくカラスが食べたのだろう。礼文のカラスは日本一の贅沢者だ。


 生活感のある集落の間を抜け、長い階段を上る。須古頓は高台にあるので、結局は上ることになるのだ。彦さんは民家ばかりであまりお薦めしないと言っていたが、けっこう楽しめた。


 星観荘が見えてきた。スコトン岬はもうすぐだ。午後2時過ぎ、ついに「森の丘コース」と「4時間コース」の二つを制覇した。


 星観荘に着くと、食事の支度をしているらしい彦さんが声を掛けてくれた。「けっこう早かったね〜。」
 そういえば昼食の時以外、全く休憩をしていなかった。一人だとペース配分が結構難しい。

 入浴を済ませ、軽く仮眠を取った後、お待ちかねの夕食の時間になった。今日は自分へのご褒美として、ダブルウニ丼(1,000円)を注文する事を忘れなかった。

 ブラックホールを見渡すと、今日から礼文入りした人がけっこういる。今朝、朝一番のフェリーで礼文入りし、途中までスターライナーに同乗したおじちゃん4人と若い女性2人のグループ。このグループは職場のサークル仲間らしい。そして、若い男女2人ずつのグループ。この4人グループのリーダーである「こんちゃん」ことKさんは、後に8時間コースのリーダーとして、非常にお世話になることになる。続いて、登山好きな体育会系のお兄さん、最後にトド島上陸に情熱を燃やす「Mr.トド島」こと同郷・愛知県人のTさん。
 昨日以上に賑やかになった星観荘二泊目の夕食は、 7月2日の夕食

   刺身(ソイ、ボタンエビ)
   ホッケちゃんちゃん焼き
   ウニ
   ところてん
   ブロッコリーとトマトのサラダ
   結び昆布の煮物
   たちかまの味噌汁
   紅茶のゼリー

そして、追加したダブルウニ丼である。

 特に絶品だったのが、「ホッケのちゃんちゃん焼き」「たちかまの味噌汁」。ちゃんちゃん焼きはウニ丼を食べ終えた後、ご飯をおかわりし、刻み海苔をかけ、その上にちゃんちゃん焼きを乗せて食べる「ちゃんちゃん丼」という食べ方を教えてもらった。味噌汁は、中に入った「たちかま」が素晴らしい食感だ。ところてんは星観荘のオリジナル。煮物は彦さんのお母さんが作ったらしい。ソイの刺身も初めて食べた。今夜も最高の食卓だった。

 ダブルウニ丼とたちかまの味噌汁 ホッケのちゃんちゃん焼き

 夕食後は恒例の夕日観賞だ。皆と連れ立って夕日を眺める。今日も晴れて良かった。

7月2日の夕日  ミーティングでは、連泊者が今日歩いたコース等を説明する事になっている。俺は今日歩いた「森の丘」と「4時間」の二つのコースのことを話した。普通、皆の前で話すとなると緊張しそうであるが、そこは聞き上手な彦さん。上手く進行してくれるので、気楽に話す事ができる。話していると、あれ程「二度と登りたくない」と思ったゴロタ岬も、もう一度登りたくなってくるから不思議だ。
 四国のよっしーさんは礼文岳について話してくれた。今日は天気が良かったから、頂上の景色も素晴らしかっただろう。

 続いて明日の予定の話になった。今日礼文入りした人のほとんどは、明日8時間コースを歩きたいという。何と、明日は10人以上のパーティーで8時間コースを歩くことになった。念願の8時間コースが現実のものになった。あとは天気になるのを祈るだけだ。

 ミーティング後は、これまた恒例の星空ウォッチングだ。降ってきそうな星空が、明日の快晴を予感させてくれた。



to be continued…


次へ       戻る



[HOME]     [TITTLE]     [1]     [2]     [3]     [4]     [5]     [6]     [7]



inserted by FC2 system