旅日記北海道編2005 離島(1)





   序 章




稚内を離れる

風の冷たさに、俺は上着を一枚余分に羽織った。早朝の稚内は、7月と思えない程冷え切った空気に満ちている。昨日までの蒸し暑い朝とは全く質の違う空気は、まるで異国に来たようだ。

 数分の後、俺は船上の人となった。朝一番の礼文島行きのフェリーに乗ったのだ。遠ざかる防波ドームの様子を、これからの旅への期待と感傷とが入り混じった気持ちで見つめる。
 今回俺が旅するのは、日本最北の離島である利尻・礼文の両島だ。

 北海道を旅するようになって10年以上が経つが、未だ行ったことがない利尻・礼文。今回、礼文島をメインに一週間の旅行計画を立てた。一箇所に長期滞在する旅も今回が初めてである。

 飛び交うカモメ 利尻富士

 海鳥がフェリーの速度に合わせるように飛び交っている。眼前に広がる利尻富士が近付くにつれ、俺の胸は高鳴ってくる。いつもながらこの高揚感は心地いい。

 そう、これから俺の新しい旅が始まる…。


旅日記北海道編2005

離島

2005.6.30 〜 7. 6





第1日目


1 旅立ちの日


月末日。豊田市から約50分バスに乗り、俺は中部国際空港(セントレア)に到着した。今年2月にセントレアが開港してから、俺の実家前から空港行きバスが出るようになり、ずいぶん便利になった。

 セントレアからのフライトは二回目だ。前回は開港一週間後、函館行きの便だった。観光客がごったがえして、食事もまともにできず閉口したことを憶えている。だが、現在は流石に落ち着いた様子で、それほどの混雑はない。

 セントレアにて スープストックトーキョーのワタリガニと海老のスープ

 「SOUP STOCK TOKYO」で軽い昼食を済ませ、フライトまでの時間、発着する航空機をぼんやりと見て過ごした。慌ただしい日常から離れた、この何でもない時間が心地良い。

 いよいよフライトの時間だ。新千歳行きANA707便。今年二度目の北海道上陸である。



2 小樽にて


千歳から小樽行きの列車に乗った。小樽は初めて北海道に上陸した時から何度も訪れた思い出深い街である。

 小樽駅のロッカーに荷物を預け、身軽になる。空気が冷たい。空港では感じなかったが、北海道に来たことを改めて実感した。時刻は午後4時をまわったところだ。少し早いが夕食にすることにした。

 定番の「一心太助」は安くて美味しい居酒屋で、学生のころから何度もお世話になっている。ウニ丼とツブ貝の造りを注文し、北海道上陸初日を一人乾杯した。今回の旅では、利尻・礼文で死ぬ程ウニを食べてやろうと密かに計画していたのだが、ここではその前哨戦といったところだろうか。前哨戦とはいっても、丼一杯に盛られたウニは迫力がある。

 一心太助のウニ丼 ツブ貝の造り

 一口食べる。…美味い!非常に濃厚だ。ウニの形が綺麗なのはミョウバンを使用しているからだろうが、俺には十分美味い。ガツガツとウニをかき込んだ。ツブ貝の造りも、一人で注文するには多すぎる位の量である。

瀧の湯温泉  夕食後、俺は小樽の寿司屋通りの外れにある「瀧の湯温泉」で一風呂浴びることにした。瀧の湯は一見ただの銭湯風だが、立派な温泉施設である。受付で370円払い中に入ると、そこは昭和にタイムスリップしたようだ。脱衣場にはゴザが敷かれ、壁にはレトロなポスターが張られている。BGMはもちろん演歌だ。

 浴室に入ると、以前あった地下の温泉施設は老朽化して使用できなくなっており、本当にただの銭湯といった雰囲気になってしまった。だが、おっちゃんが鼻歌を歌いながら湯船に浸かっていたり、刺青を入れた兄ちゃんが、何度もサウナと水風呂を往復していたりと、なかなか味わい深い。
 少し熱めの湯に浸かった後、懐かしいケロリンの桶で身体を洗った。

 小樽での定番の散歩コースを歩き、小樽運河に到着した。他の観光客に混じってぼんやりと運河を眺めていると、ガス灯が次々点灯した。午後6時に点灯するらしい。だが、生憎周囲は明るく、あまり良い景色ではない。時間もあることだし、俺は三脚にカメラをセットし、暗くなるまで待つことにした。  ベンチに腰掛け、次第に暮れ行く風景を眺める。この「何もしない時間」が、今の俺にはとても貴重である。

 小樽運河の風景 ガス灯に照らされる小樽運河

 午後7時を過ぎて、ようやくガス灯や街の灯りが良い雰囲気になってきた。気の向くまま夕暮れ時の風景を撮影し、俺は小樽運河を後にした。



3 夜行バスに乗って


幌駅に到着したのは午後9時過ぎだった。札幌発稚内行きの夜行バスは午後11時発でまだ時間がある。かといって、街中まで繰り出す程でもないため、札幌エスタ10階にある、「札幌らーめん共和国」に行くことにした。

 ここは道内の有名なラーメン屋が沢山入った、最近よくあるラーメンのテーマパークである。札幌、旭川、函館、釧路の四大ラーメンや、珍しいところでは根室の店も入っている。迷ったが、今年は釧路に行けなかったということもあり、釧路ラーメン「河むら」に入ることにした。

 札幌らーめん共和国 「河むら」の醤油ラーメン

 ここはオーソドックスに醤油ラーメンだ。魚介系の透明度の高いスープにちぢれ麺。うん、美味い!表現は悪いが、高山ラーメンに近いと言えばわかりやすいかも知れない。すっきりとした味わいは、酒を飲んだ後でも合いそうだ。流石は釧路の名店。
 俺は、今頃釧路の炉端を飲み歩いているであろう友・なべさんを思った。ごめんよ、なべさん。今年は釧路に行けなくて…。

 俺は「センチュリーロイヤルホテル」へ向かった。このホテル前から出ている夜行バスで、稚内へ向かうのだ。これに乗れば明日の早朝には稚内に着く。交通費も安く、ホテル代も節約できる。今回の旅の中心である、利尻・礼文では何かと金がかかることが予測されるので、締めるところは締めておきたい。

 午後11時発の夜行バスは、意外に客が少なかった。窮屈な車内を想像していたので、これはありがたい。車内は三列シートで、満員でなければそれなりに広く感じる。飛行機のエコノミーシートよりはよっぽどいいだろう。毛布やイヤホン、スリッパ等もある。

 バスは静かに走り始めた。夜行バスだけあって、車内はすぐに消灯した。カーテン越しに街の灯りが通り過ぎていくのを感じながら、俺は目を閉じた。



to be continued…


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