旅日記北海道編2003 再訪(1)

 HP「塀の中の懲りない面々」に連載中


序章 九月の名古屋はどえりゃあ暑かったわけで


にゃあごや空港  七月、八月と、夏とは思えない涼しい日が続いたが、九月になってそのツケが一気に来た。厳しい残暑とストレスの溜まる仕事。沸々と心の奥底から湧き上がってきたのは「旅に出たい」という感情であった。いつからか俺は、夏になる度に「北海道に行きてぇ症候群」が発症するようになったらしい。

 旅立ちは九月下旬に決めた。期間は一週間。盆に取得しなかった夏期休暇をフルに活用した。俺の職場で一週間の連休を取るのはなかなか勇気が要ったが、普段地道に勤務しているのだ。罰は当たるまい。
 今回は6泊7日の日程で道東を中心に旅をするつもりである。コース的には昨年訪れた場所と重なる点も多いが、何度でも訪れたくなる場所というものは確かにあるのだ。

 昨年眺めた美しい風景を、自然の滋味を、もう一度確かめたい。そして、新たな発見をしたい。29℃の名古屋空港から旅客機が飛び立つより早く、俺の心は北の大地へ旅立っていた。



第一日目 友人との再会はラーメンが定番なわけで


1 小樽


 新千歳空港から直接小樽に向かう。金は無いが時間だけは腐るほどあった学生時代、俺の旅はフェリーが主流であった。小樽は、俺が生まれて初めて北海道に上陸した際に最初に訪れた街で、なかなか思い出深い。

  運河        小樽運河食堂

 観光の定番である小樽運河沿いに歩く。学生時代は何の感慨も湧かなかった運河や倉庫も、何度か訪れるうちに俺の好きな風景の一つになった。日が暮れてからもう一度訪れようと心に決め、小樽運河食堂に向かった。ここは昨年出来たばかりで、全国の有名ラーメン店が集まっている建物だ。6軒のラーメン店と売店、奥にはビアホールがあり、昭和初期の街並ようなレトロな雰囲気を演出している。横浜のラーメン博物館よりは小規模だが、札幌の「すみれ」、博多の「一風堂」、横浜の「くじら軒」、池袋の「大勝軒」等、かなり豪華なラインナップで、ラーメン好きの俺は感動した。平日の午後2時過ぎという中途半端な時間のためか、どの店も空いている。各店ともミニラーメン(500円〜)もあり、ハシゴできるようになっているが、夕食を腹一杯食べる予定の俺は一軒だけで我慢しておくことにした。「すみれ」や「大勝軒」も捨てがたいが、俺は「くじら軒」の塩ラーメンに決めた。流石は名店。力強い細麺に、煮干、サバ節等の魚介系のダシがしっかりと活き、素晴らしいクオリティの高さだ。いい意味での「万人向け」の味で、ここのラーメンが嫌いだという人はあまりいないのではないだろうか。
 続いて、オルゴール堂やガラス製品の店をうろつく。美しいガラス製の薄茶器があり気に入ったが、初日からガラス製品を買うと何かと不自由になるので今回はパスだ。
 生チョコ入りのソフトクリームを食べながら行き交う人を眺める。今日は特に修学旅行生が多い。そういえば空港にも沢山いたな。修学旅行で北海道とは贅沢な話だ。俺の高校時代の修学旅行なんて長野でワラジ作りや植林をしたぞ。ぼんやりとそんな事を考えていると空は曇り、小雨が降ってきた。俺は逃げるように小樽駅付近、ガード下の飲食店街に向かった。少し早いが夕食にしよう。

  オルゴール堂        鮭の親子丼とツブ貝

 俺が訪れたのは「一心太助」という居酒屋だ。学生時代から何度も訪れたことのある安い有名店だが、最近はガイドブック等で見かけなくなったので少し心配していたのだ。営業中だ!良かった。午後4時過ぎと時間帯が早いため客はまばらである。ウニ丼を注文しようとすると、ウニは八月いっぱいで終わりだという。ショックだったが、すぐさま鮭の親子丼(900円)に変更した。脂ののった大きな焼き鮭が乗り、その周囲をイクラが覆う。これで900円は安い。さらにツブ貝の造りを注文した。こちらもコリコリとした歯触りが絶品である。ウニ丼が食べられなかったのは残念だったが、俺は十分満足した。ちなみに、今回は食べられなかったウニ丼は一心太助では1600円と非常に安い。通常の店なら2500円以上はするのだ。

 一心太助を出た俺はもう一度小樽運河へ向かった。周囲は既に暗くなっており、街灯とライトアップされた倉庫がロマンチックである。俺は夕暮れ時の運河がとても好きだ。好きな風景をぼんやりと眺めているだけの時間…。余裕の無い日々では忘れていた感覚だ。しばし、この幸せな時間を噛みしめることにしよう。



2 札幌


 今日の宿は、札幌駅付近のビジネスホテルである。チェックインして一服した後、今着ていた下着等を洗濯する。最低限の荷物での旅であるため、出来る時に洗濯を済ませなければならないのだ。
 今夜は大学時代の友人・森と再会する予定である。森は毎回午後11時近くまで仕事をしているので、それまでぼんやりと待つことにした。午後10時半頃になって森が迎えに来てくれた。ここ数年間、森との再会の時はラーメンが定番になっている。昨年は「五丈原」、一昨年は「玄咲」だった。今回は俺のリクエストに応えて「てつや」に連れて行ってくれた。
てつやの前にて  「てつや」はカウンターだけの小さな店ながら、常に行列を作っている有名店だ。だが、時間が時間なだけにすんなりと座ることができた。ここに来たからにはやはり醤油だ。背油が浮いた濃厚なスープが札幌ラーメン独特の縮れた太麺にからむ。濃厚ながら意外にしつこくなく、夕食を腹一杯食べた後でもするすると入ってくる。麺は4〜5日寝かせ,スープはゲンコツや豚骨等を強火で12時間煮込むといった徹底したこだわり。「美味しさを求めたら,この味にたどりつきました」という宣伝文句は伊達ではない。
 「なまら美味いっしょ?」"なまら"は英語でいう"very"と同じ意味だ。森と会うのは丁度一年振りである。大学時代、俺が茶道部、森がスキー競技部と打ち込んだものは全く違うが、俺達は良く気が合いよく行動を共にしていた。
 「明日からどこに行くんだ?」森が尋ねる。
 「うん。明日釧路に行って、それから道東を周るよ。今回は層雲峡の方まで行くつもり。」
 「そうか。いいな。俺も丸瀬布にはずっと帰ってねぇべ。」丸瀬布(まるせっぷ)は森の故郷であり、学生時代には何度か泊めてもらったこともある。
 「懐かしいな、丸瀬布。久し振りに行ってみるかな。」大自然に囲まれた、昆虫と林業の町。俺はあの町にもう一度行ってみたくなった。
 「行ったらいいさ。温泉入ってこい。」
 わざと遠回りに送ってもらいながら、俺達は近況や思い出を語り合った。森は明日も仕事だという。
 「ありがとう。早く結婚しろよ。北海道に来る口実が出来るから。」俺は手を振り、森と別れた。短い再会だったが、友の元気な姿を見ることができて良かった。

 札幌は眠らない街である。眠りにつくには早い時間だが、まだ旅は一日目だ。今日は早く就寝することにしよう。



to be continued…


次へ       戻る



[HOME]     [1]     [2]     [3]     [4]     [5]     [6]



inserted by FC2 system