旅日記北海道編2002 友情(5)

 HP「塀の中の懲りない面々」に連載中


尾岱沼〜裏摩周展望台

尾岱沼 野付温泉

 野付半島を後にした俺は,尾岱沼(おだいとう)港に来ていた。丁度,野付湾を挟んでトドワラと向かい合う位置である。港からは観光船が出ており,アザラシも見ることができるという。また名物の北海シマエビ等の新鮮な魚介類の販売所や飲食店もある。俺がここを訪れたのはお薦めの温泉があるからだ。
 野付温泉 浜の湯。俺はトドワラ等の観光後は必ずここに寄ることにしている。一見,簡素な銭湯風の建物である。料金も370円と銭湯並だ。だが,ここはアルカリ性単純温泉とナトリウム塩化物泉の2つの源泉が湧き出ており,さらに露天風呂まである。内風呂には泉質別に分けた二つの湯舟がある。アルカリ性単純温泉はツルツルした肌触りがあり,ナトリウム塩化物泉は塩味が強く,その割にベタベタ感がない。どちらの泉質も非常に気持ちがいい。ここは,どちらかというと観光客よりも地元の漁師さんが利用することが多いのだろう。洗い場も広くて使いやすい。北海道には無料の温泉は沢山あっても,洗い場がないことが多い。シャワーを使ってシャンプーできるのは久し振りのような気がする。露天風呂には水車が回り,潮風が心地良かった。
 浜の湯から出ると,M下さんからメールが入った。「霧多布の温泉良かったべや!」温泉好きのM下さんも丁度入浴した直後だったらしい。

 続いて俺は国道244号線を西に向かい,摩周湖を目指した。摩周湖といえば,ご存じの通り世界一の透明度を誇る神秘の湖である。第一展望台,第三展望台がメジャーであるが,今回俺が向かったのは裏摩周展望台だ。弟子屈町にある第1,第3展望台の反対側にあることから「裏摩周展望台」と呼ばれているのだ。弟子屈町側の展望台よりも標高が低いため,より近くから湖面に望める。また,「最初に摩周湖に訪れたとき,晴れているとお嫁に行けない」という旅行業者が流したような伝説もあるように,摩周湖は非常に霧が多いのだが,裏摩周展望台は霧の発生率が低いというメリットもあるのだ。
 辿り着いた裏摩周展望台は思ったとおり観光客が少なかった。そもそも,ここには観光バスが来ることも少ないようだ。人ごみが嫌いな俺はこちらの展望台の方が好みである。駐車場が無料というのも嬉しい。

裏摩周展望台  俺が摩周湖を訪れるのは7回目位になる。摩周湖というと霧で有名であるが,幸か不幸か,俺はいつも晴れた摩周湖しか見たことがない。一度くらい霧の摩周湖にお目にかかってみたいものだが,今回の摩周湖も晴天だ。この気高く美しい湖を見るのは,観光客が群がる弟子屈町側の展望台より,こちらからの方が相応しい気がする。
 湖に浮かぶ小島「カムイッシュ」が見える。カムイッシュとかカムイヌプリ(神の山)というように,周辺にはカムイ(神)というアイヌ語が多く使われている。ここからもわかるように,摩周湖は神聖な湖として古くから守られてきたのだ。「あの島に上陸できたらな〜」とカムイッシュを見る度に思ってしまうのだが,やはりあの島は人が踏み込むべきではないのだろう。
 吹き抜ける風にあたりながら,俺は時間を忘れて澄み切った湖を眺め続けた。このまま夕日の摩周湖や,星空を写した夜の摩周湖を見てみたい気がしたが,生憎俺に残された時間は残り少ない。波ひとつない湖面に無言で再会の約束をし,俺は裏摩周展望台を後にした。


神の子池


神の子池の水が小川となって流れ出す  裏摩周展望台から北上し,林道に入っていく。2キロ程のダートを走ると,神の子池という小さな池に出る。この神の子池は水深5m程の小さな池だが,地下で摩周湖とつながっている。摩周湖の水位が変わらないのは,この池に摩周湖から伏流水として莫大な量の水が湧き出しているからだという。では神の子池に来た水はどこに行くかというと,小川になって勢いよく流れ出しているのだ。

 神の子池に来るのはこれで二度目である。ここの透き通るブルーにもう一度会いたい。摩周湖を眺めていてそう思った。俺は今回の旅の最後に相応しい場所としてここを選んだのだ。

 「………。」俺は思わず息を呑んだ。そこには前回と変わらない蒼さがあった。この神秘的なブルーは決して人の手では作り出せないだろう。カムイトー(神の湖)といわれる摩周湖の子,まさに神の子という呼び名に相応しい。

  神の子池のブルー        美しい蒼に魅せられて

 池の周囲を歩きながら俺は何枚もシャッターを切った。視点を変えることで,この小さな池は様々な表情を見せてくれる。ところが,ある場所まで来たとき俺は目を疑った。池の中に散らばる無数の硬貨を認めたのだ。怒りで足が震えた。トレビの泉じゃあるまいし,ここへの再訪を願って観光客が投げ込んだのか!?馬鹿野郎!!そんな奴は二度とここに来るんじゃない!折角の気分が台無しになった。

  この色は実際に見ないと        大量の硬貨が沈む,大馬鹿の所業。ゴミを捨ててるのと一緒だ

 数年前までここはほとんど人に知られることのない穴場だったはずだ。だが,今は小型の観光バスも入りこむし,訪れる観光客も多くなった。心無い人が訪れる確率も高くなったに違いない。かつて秘湯といわれたカムイワッカが観光名所化したように,ここのブルーもいつか汚されてしまうのだろうか。  自然を美しいと思いながらも,それを汚す観光客。観光が重要な収入源となっているという現実。心無い観光客に怒りを感じるが,俺もまた観光客の一人なのだという矛盾…。
 夜までには釧路に戻らなければならない。俺は不快な気分を振り払うようにファミリアのアクセルを踏んだ。


終章

ゼブラの牧草ロール  釧路ではなべさんが待っていた。今夜はなべさんの官舎に泊めてもらうことになったのだ。今回の旅は何から何までお世話になりっぱなしである。礼を言う俺に,なべさんは「いいべ,いいべ。おえおえ〜。」と陽気に笑った。本当に懐の広い人である。なべさんに会ったら何か胸のつかえが取れた気がした。北海道最後の夜,俺達はなべさんが録画した「北の国から」を見ながら飲み明かした。

 翌日「特急スーパーおおぞら」に乗り込んだ俺は,車窓から流れて消える景色を見ていた。今回の旅は多くの友人達に支えられていた気がする。残業疲れの身体でラーメンの名店を選んで連れていってくれた森,俺の旅に付き合い,もてなしてくれたなべさん,千歳から道東まで駆けつけてくれたM下さん。そして旅の間に出会った名も知らない友人達。今回の旅で出会ったすべての人に感謝した。

 「ありがとう。」俺は小さく呟いた。俺はまた来年ここを訪れるだろう。予感が確信に変わったのを感じ取ったように,列車は加速していった。


旅日記北海道編2002 友情 


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