‥‥そんなワケで、サロマ湖・船長の家で朝を迎えたあたしは、朝から温泉に入り、身支度を済ませた。朝食を食べに食堂に行くと、毎度のことだけど朝食も充実していた。帆立の刺身やフライ、カニ、牡蠣、鮭、イクラ、タラコ、塩辛なんかが並んでる。さらに、鍋も二種類あって、朝から牡蠣しゃぶが付いていて驚いた。食後にはホットミルクを持ってきてくれて、あたしはほっと一息ついた。
昨日、雪道を走ったせいか、デミオ君はドロドロに汚れていた。今日も雪道を沢山走るだろうから、可哀想だけどこのまま発進させることにした。
サロマ湖から東に向かい、能取湖、網走湖なんかを眺めながら走るのは、あたしの定番コースだ。このまま知床まで走りたいところだけど、今回、時期的に長距離を走るのは避けたかったので、知床はコースに入れてない。網走の天都山(てんとさん)に寄り道して、展望台から網走市街と遠くの知床方面を眺めるだけで我慢した。
網走から、オホーツク海を眺めながらさらに東へ向かう。荒々しいオホーツク海は、いかにも最果ての土地に来たって気がしてワクワクする。
小清水のあたりで、あたしは南に方向転換した。ここまで来ると、地面は一面雪で真っ白で、走っていてすごく気持ちいい。遠くに見えるのは斜里岳だろうか。交通量も少ないので、あたしはのんびり車を走らせた。
今日最初の目的地は、神の子池だ。あたしは何度も来てるけど、冬の神の子池も見てみたい。
雪の積もった林道を慎重に走って、あたしは神の子池に到着した。駐車場も一面の雪だ。流石に観光客も少ないみたいだ。
周囲に雪の積もった神の子池は、静かに蒼い色を湛えてた。鏡みたい水面に、周りの雪景色が映って凄く綺麗だった。
神の子池の水温は、年間を通して一定で、冬でも凍らない。腐らずに水中に横たわる倒木も前と変わらなかった。あまり動かないけど、水中のオショロコマも見える。
あたしは、あまり深く考えずにここに来たけど、神の子池に入る林道は除雪されないだろうから、今が車で来れるギリギリの時期なんだろう。あたしは幸運に感謝した。
今の時期は、裏摩周展望台も閉鎖されている。あたしは、そのまま養老牛を抜けて、開陽台に向かうことにした。
開陽台の駐車場に積もった雪はシャーベット状だった。今の時期でもけっこう車が来てるみたいだ。開陽台からの眺めは何十回も見てるんだけど、丘や農地に積もった雪が景色に加わって、けっこう新鮮だった。
開陽台を出て、あたしは、周囲の道路を走りながらビデオカメラで撮影した。あたしは、開陽台よりも、この道を走りたかったのかもしれない。開陽台前のまっすぐな道を、あたしは、何度も往復して堪能した。
時間はまだ早いけど、あたしは、宿にチェックインすることにした。今夜のあたしの宿は、屈斜路原野ユースホステル。屈斜路湖南の何もない原野に、ポツンとお洒落なログハウスが建っていた。礼文島の星観荘もそうだけど、あたしはこんな宿が好きだ。
このユースの構造を少し説明すると、中央に、吹き抜けになってる食堂兼広間があって、その周りの2階部分を客室が囲む構造になっていて、客室の上にはロフトスペースがある。ここは、ユースなのでドミトリー方式、つまり男女別相部なんだけど、宿泊客が少ないので、ロフトスペースを独占することができた。荷物を置いて、あたしは屈斜路湖に向かった。
あたしのお目当ては、コタンの露天風呂。屈斜路湖周辺にある無料温泉の中でも、ここ、コタンの露天風呂は一番入りやすくて清潔だ。
今の時期の屈斜路湖は、沢山の白鳥が飛来してる。湖だけじゃなくて、近くの駐車場や畑なんかにも、スズメやカラスみたいに、普通に白鳥がいて微笑ましい。
コタンの湯の近くにも、白鳥が沢山いた。湯に浸かると、丁度、湯と同じ位の高さに屈斜路湖が広がっている。悠然と泳ぐ白鳥と、日没する屈斜路湖を眺めながらの温泉…。あたしは何とも贅沢な気分になった。
ユースに帰ると、夕食の準備中みたいだった。ここは、オーナーが元板前さんで、食事が美味しいと評判なのですごく楽しみだ。今日の宿泊者は、あたしの他は、家族連れと、東京から列車で来ているサラリーマンのKさんだけだった。あたしは、Kさんと雑談した後、食堂に向かった。
今日のメニューは、自家製のスモークサーモンや秋刀魚等の天麩羅、おすまし、肉じゃがだ。半熟卵を落とした肉じゃがは絶品で、あたしは汁まで残さずいただいた。デザートは自家製のプリンだった。
食後は、温泉ツアーということで、オーナーがコタンの温泉に連れて行ってくれることになった。コタンは、さっき行ったばかりだったけど、あたしも参加することにした。
オーナーの運転する四駆に、オーナーの小学生の息子さんとKさん、あたしの四人が乗り込み出発する。BGMは、オーナーの好きな中島みゆきだった。
夜のコタンは、暗闇に包まれていて、さっきとは全く雰囲気が違っていた。他にお客もいないので、とても静かだ。見上げると、降ってきそうな星空だ。満天の星を眺めながらの入浴は、昼間とはまた違った贅沢さで、あたしは感激した。
ユースに帰ると、お茶やコーヒー、お菓子なんかが用意されてて、ちょっとした懇親会になった。といっても、Kさんはお酒を飲まなかったし、ヘルパーさんももちろん飲まないので、あたし一人がオーナーに、オリジナルのカクテルを作ってもらう。「阿寒湖」っていう、多分マリモをイメージしたグリーンのカクテルで、甘くてあたし好みだった。ついでに、くりーむ童話のアイスクリームも食べる。
Kさんと、夜明けの摩周湖を見に行こうと約束して、会はお開きになった。
その後、あたしは一人、ユースの外に出て星を眺めた。星観荘もそうだけど、周りに光源が少ないので、凄く星がよく見える。でも、さすがに11月下旬だけあって、あたしは寒くてガタガタ震えてしまった。
‥‥そんなワケで、あたしは、あまりにも寒いので、宿のお風呂に入り直すことにした。ここは、ユースなのに正真正銘の温泉だ。浴槽はそんなに大きくないけど、源泉かけ流しで、休みなく温泉が流れ出ていて凄く贅沢だった。
今回、あたしは、じゃらんの宿泊プランを利用したんだけど、本当にこれでいいの?って位、安く、このユースに泊まっている。
今日三度目の温泉に、身も心もとろけそうになりながら、あたしは、これだけ料理も美味しくて、温泉もあって、夕食代込みで4,000円ちょっとなんて、本当に大丈夫なのかなんて、またしても余計な心配をしてしまった。
部屋に帰ると、Kさんは、もう寝てしまっていた。あたしは、音を立てないようにロフトによじ登って、布団に潜り込んだ。あたしは、ロフトも何だか秘密基地みたいでいいもんだなって思った。
明日は旅の最終日。目を閉じると、嫌でも帰ってからのことを考えてしまい、ちょっとブルーになってしまう今日この頃なのだった。
to be continued…