旅日記北海道編2010 楽園 3





四日目 天売島




日は朝から大荒れの天気だ。
晴れ男の俺は、旅先ではめったに雨に降られないのだが。
 今日は北海道全域が大雨なので仕方ないか。

     

 昨日のうちに観光を済ませていて本当に良かった。

 今日も天売島で一泊するが、宿は変更して「民宿 栄丸」に泊まる。萬屋旅館から1キロも離れていない。

 栄丸に荷物を置き、レインウェアを装備する。今日は天売島の中心部分の森を歩くことにした。

 天売の森は、ウッドチップが敷き詰められ、非常に歩きやすい。
 木々に囲まれているので、いくらか風雨をしのぐことができる。

     

 鳥の声と雨音以外は静寂の世界だ。人は全く歩いていない。
 途中、蝉が羽化している場面に遭遇し、しばらく見入っていた。こんな光景を見るのは子供のとき以来だ。

     

 森を抜けると風雨は変わらず激しいが、防水透湿の登山用レインウェアのお陰でそれ程苦にならない。
 使わなければそれにこしたことはなかったが、持ってきた甲斐があった。

 「海の宇宙館」でコーヒーを飲み、のんびり過ごす。ここには海鳥の写真や資料等が展示されている。

     

 普段なら宇宙館の隣に食堂があるのだが、今日は休みなので港まで行き、昨日入った「てうり亭」で食事をする。

     

     

 生ウニもずいぶん食べたので、ウニ茶漬けとかけ蕎麦を注目する。
 沢山のウニにだし汁がかかり、好みで山葵やネギを入れる。
 これがけっこう美味い。冷えた身体がすっかり温まった。

 午後のフェリーは欠航だった。明日は大丈夫か?

 その後は特にすることもないので、宿でシャワーを浴び、宿に置いてあった「犬と私の10の約束」を読みながらだらだら過ごした。

 雨はますます激しくなり、宿の窓から見える海は白波が立っている。

 夕食の時間になった。
 今日は午後のフェリーが欠航になったせいで、他の客のキャンセルが相次ぎ、俺の他は高齢のご夫婦一組だけの宿泊なのだそうだ。

 栄丸の目玉は、海鮮バーベキューの夕食。ウニやホタテ、甘エビ、ミズダコ等を焼いて食べる。

     

 今年初物だという秋刀魚もあった。
 ウニは生と焼いた物を交互に食べる。焼くと甘みが増すようだ。
 生でも食べられるミズダコも、弾力があって美味かった。
 さらに海鮮丼が付く。もう当分魚介類はいいや。

 今夜はウトウウォッチングのツアーも中止だそうだ。昨日見られて本当に良かった。

     

 島の夜は早い。雨と波の音だけが響いている。
 旅は残すところあと二日。楽しい時間はどうしてこんなに早いのだろう。
 ぼんやり考えているうちに、俺はいつしか眠りについていた。









五日目 天売島、定山渓




夜明けて、天売は曇り。
波は穏やかだ。どうやらフェリーは動きそうだ。

 近くの海岸を散歩し、遅めの朝食を食べる。

     

 港に送ってもらい、10時25分のフェリーに乗る。
 天売の見送りもなかなか派手で、色とりどりのテープが舞った。

 天売島は小さいながら、ここでしか見られない景色があり、何より食べ物が抜群に美味かった。

 これで利尻、礼文、奥尻、天売、焼尻の5島を制覇したが、食べ物に関しては、天売島は一番かもしれない。

 ガイドブックにもほとんど載らない、何より俺の携帯では変換もできないマイナーな島、天売、焼尻だが、底知れぬ魅力のある素晴らしい島だった。

 遠ざかる二島に、いつかまた来ることを誓った。

     

 フェリーでは、昨日食堂で話をしたおっちゃんがいた。
 このおっちゃんは、昨日の嵐の中、自転車で島を一周したという気合の入ったおっちゃんで、俺と装備品がよく似ていて面白かった。
 だが、流石に昨日はウトウの帰巣は見られなかったという。

     

 フェリーの中で、おにぎりを食べる。
 栄丸で特別に作ってもらった塩ウニ入りだ。
 わざわざ出発直前に作ってくれたのでまだ温かい。島の人の心遣いに、改めて感謝した。

 フェリーが羽幌に到着すると同時にダッシュし、バス乗り場に向かう。
 フェリー到着からバス発車まで20分弱しかない。

 再びバスで札幌へ。今日は定山渓温泉で泊まる予定だ。

     

 連日食べ過ぎたので、札幌では軽くラーメンを食べることにした。
 「赤星」という小さな店に入る。中途半端な時間なのに、けっこうお客が入っている。
 シンプルに醤油にした。
 500円と安いのに、濃すぎず、あっさりしすぎず、美味い一杯だった。
 さらに、にんにくさば粉を途中で入れて変化を楽しむことができる。
 ここはいい仕事をしている。ゴタゴタして値段ばかり高いラーメン屋に見習ってほしい。

 定山渓行きのバスに乗った。
 札幌から近いというのに、車窓からは渓谷や岩壁等が見えてきて新鮮だった。
 しばらくバスに揺られ、札幌の奥座敷、定山渓に到着した。

 今夜の宿は、「定山渓万世閣 ホテルミリオーネ」
 大きなホテルだけあって、大浴場は広く、浴槽の種類も多い。シンプルな無色透明なナトリウム泉だった。

 露天風呂から眺める温泉街の夜景が綺麗だった。
 結局、この日は3回入浴した。

 今夜はこの旅最後の夜だ。酒屋で買ってきたカクテルで独り乾杯した。







六日目 定山渓、新千歳




日は早起きして温泉に入った。 人も少なく、露天風呂を独占できた。

 朝食はよくあるバイキングで、特記することもないが、芋餅やキャラメルプリン等、北海道らしいデザートがあって嬉しかった。

 食後は腹ごなしに温泉街を散策する。温泉街を歩くのも、温泉に来た楽しみのひとつだ。

     

 定山渓は、所々に足湯や河童のオブジェがあって面白かった。
 1時間位散歩して、汗をかいたので再度入浴する。結局、昨日から5回も入浴してしまった。

     

 その後、新千歳空港行きのバスに乗る。今回の旅はバスに乗ってばかりだ。

 定山渓は近すぎて泊まったことはなかったが、なかなか味のある温泉街だった。
 札幌の中心から30キロ弱でこんな良い温泉があるのだから、札幌近郊の人は幸せだと思う。

 バスに揺られ、新千歳空港に到着した。最近は地方の空港ばかり利用していたので、新千歳の店の多さに圧倒された。天売でも土産を買って送ったのだが、結局ここでも大量に買い込んでしまった。

     

 雪印パーラーでソフトクリームを食べながら、今回の旅を反省する。

 6日間で雨に降られたのは1日だけだったので、まあまあといったところか。

 飛行機代は安かったが、それ以外の交通費が予想外に高くついた。フェリー(特に高速船)やバスに沢山乗ったことが大きい。
 交通手段が限られているから仕方ないとはいえ、移動時間も長かった。

 だが、両島の景観、特に天売のウトウの帰巣は時間と金をかける価値があると思う。
 食べ物の美味さも、過去の旅の中でベスト3に入る。島の人も本当に親切で、温かい。
 利尻や礼文に比べて、エンターテインメント性は少ないかもしれないが、日常を離れ、のんびり過ごすには最適な島だと思う。

 飛行機は予定通り離陸し、俺は心地よい疲労感の中でまどろんだ。
 着陸態勢に入り、機体が雲に入ると大粒の雨が窓を伝った。
 現実に戻った俺を待っていたのは、梅雨明けしていない愛知の空と、明日からの仕事だった。

 








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