旅日記番外編2009 ピエールの富士登山日記




はじめての富士登山 後編



 日付が変わり、午前1時少し前、少しずつ起きだして行く人々に合わせ、支度をする。
 少し頭痛が残っていた。
 ロキソニンをウィダーインゼリーと一緒に流し込み、シャツ2枚にフリース、防寒着代りのレインウェアを着て山小屋を出る。

 外は暴風だった。
 重いリュックごと吹き飛ばされそうな風。
 一寸気を抜いた瞬間、片方の軍手が消えていた。吹き飛ばされたのだ。

 白雲荘前は登山者でごった返していた。
 ツアーのガイドらしき人が慌しく点呼を取っている。
 「ツアー22名中12名、ここでリタイアでよろしいですね。」
 そんな会話が聞こえた。
 この暴風で、8合目でリタイアする人が続出していた。

 

 身の危険を感じる程の風の中、俺はしばらく本気で迷い、山小屋の前をウロウロと歩いた。

 この風は本当に洒落にならないのではないか。 (冷静な俺)
 山小屋に戻って、朝まで眠れたらどんなに楽だろう。 (弱い俺)
 諦めたくない。ここまできたら山頂まで行きたい。 (負けず嫌いな俺)
 高いバスツアー代払ってるし。 (小さい俺)

 リタイアか、否か。

 ………。

 決めた、行こう!
 俺は、他の団体の後について登り始めた。

 一度進んだら、もう後戻りはできない。

 ここからは、ほぼノンストップで歩き続けた。
 どんなにゆっくりでも、立ち止まらずに歩き続けた方が疲れが少なく、体温を低下させないことを身体で理解したからだ。
 さらに、団体に紛れ、盾代わりにすると、風の影響が少ないこともわかった。

 午前2時26分、本8合目(標高3350m)。
 何で8合目の次が9合目じゃなく、本8合目なんだ!?

 毒づいても、さらにその次は8合5勺で、なかなか9合目に着かない。

 見下ろすと遥か下から山頂に向かい、天の川のように光の帯が伸びている。
 多くの登山者が帽子に付けているキャップライトの灯りだ。
 そして、降ってきそうな星空。
 極限状態の中で、俺は素直に「美しい」と思った。

 

 これ程多くの人が、こんな真夜中に山頂を目指して歩いているのだ。
 恐らく、こんな山は日本、いや、世界中を探してもないだろう。
 今まで俺が知らなかった世界を垣間見たようで、何だか圧倒された気持ちだった。

 

 午前3時58分、ようやく9合目。
 麓がだんだん赤く色づいてきた。もうすぐ夜明けだ。

 

 午前4時25分、山頂まであとわずかな筈だが、凄まじい混雑で前へ進めない。

 午前4時35分、赤く染まった雲から太陽が昇り始めた。

 ご来光だ。

 

 周囲から「おおっ!」というどよめきと、拍手が起こる。
 昇っていく朝日を眺めるのは何年振りだろうか。俺は、素直に感動した。

 

 午前4時50分、ついに山頂の鳥居をくぐる。やっと着いた!!

 

 覚悟はしていたが、山頂はかなりの寒さだった。
 背に腹は代えられないので、売店に飛び込む。
 店は登山者で一杯だったが、なんとか座るスペースを確保した。
 豚汁を注文すると、「800円です。」とのこと。
 高っ!
 8合目で500円位だったからそんなものだと思っていたら、一気に300円高くなっていた。
 仕方なくそのまま注文する。
 紛れもなく日本一高い豚汁は、豆腐が高野豆腐だということ以外は普通だった。

 

 風は相変わらず強く、身の危険を感じる程だ。火口付近に近寄っている人はほとんどいなかった。

 火口を一周するお鉢巡りは、今回は諦めざるを得なかった。

 

 ちなみに、今回、山頂で抹茶が飲みたくて茶籠やキャンプ用のガス等を持参していたのだが、強風で断念した。これがなければ、もう少し身軽に登山ができたと思う。

 

 下山道は、登山道と一転して、なだらかで単調なコースになる。
 ただ、長い。延々と、つづらおりの道が続く。
 景色もそれ程変わらず、気が遠くなる程の長さだ。しかも日が照って暑い。砂埃が舞う中、ずるずると歩き続けた。

  

 文章にすると数行で終わってしまうが、このつづらおりは、ほとんど休まないで2時間半位かかった。

  

 また、下山道にはトイレや休憩できる場所がほとんどない。つづらおりの終点でようやくトイレがあったが、物凄く込んでいて、男子の小用でも10分以上待つ羽目になった。さらに、有料(200円)とおまけ付きだ。

 つづらおりを終え、やっと一番下までたどり着いたかと思ったら、今度は横方向に向かって延々と歩いて行かなければならない。
 途中、落石除けのトンネルを通る場面もあった。

 横方向に1キロあまり歩くと、ようやく6合目に到着した。
 6合目付近には馬が何匹も繋がれていて、有料で馬に乗せてもらうこともできるようだ(足を痛めたおっちゃんが乗せられていた)。ちなみに、料金は1万円位らしい。当然馬の落し物も多く、芳しい匂いが漂っていた。

  

 そこから、さらにゴールの五合目までは1.7キロほどある。最後には軽い登りもあり、疲れた足にはけっこうきつい。馬糞を避けながら、とぼとぼと歩いた。
 この辺りは、登りの時と同じコースなのだが、「こんなに長かったか?」って位、長く感じた。

 午前9時52分、河口湖口5合目着。

 ついにゴール!長かった…。

  

  

 本来なら、すぐにバスに乗って休めたはずだが、運転手が渋滞に巻き込まれ、バスに入れないアクシデントがあり、駐車場で昼ころまで待つ羽目になった。

 その後、「溶岩の湯 泉水」という温泉に入り、汗を流した。

 帰りは連休最終日ということもあり、さらに渋滞し、家に着いたのは午後10時だった。

 今回の登山は、利尻岳に登る練習と冒頭で言っていたが、正直、「舐めてました。すんません。」と素直に謝りたい。
 3,700メートル級の山の空気の薄さ、暴風等の自然の厳しさは、一度体験しないとわからないものだった。
 しかし、新調したトレッキングシューズやレインウェア等の性能を確かめる絶好の機会だったと思う。

 トレッキングシューズか、1足2000円位したトレッキング用靴下のお蔭かわからないが、靴擦れが全くできなかったこと、
 下りに時間をかけたせいか、サポーターが適切だったのかわからないが、膝等を全く痛めなかったこと、
 筋肉痛がほとんどなかったこと等、十分な収穫があった。

 目指すは来月の利尻岳。天気が良いことを祈るのみだ。



旅日記番外編2009 ピエールの富士登山日記 完



   参考資料


今回持って行って重宝したもの

・トレッキングシューズ(防水透湿のもの)
・トレッキング用靴下(厚手で透湿) ・軍手、ゴム手袋
・雨具(防水透湿のちょっと良いもの)
・大き目のタオル(防寒、日よけ等)
・スポーツドリンク
・アミノバイタル(顆粒)
・ゴミ袋
・トイレットペーパー(芯を抜いたもの)
・キャップライト
・懐中電灯
・防寒着(フリース)
・登山用ストック(折り畳みできるもの)
・日焼け止め
・サングラス
・スパッツ(くるぶし部分を覆う。靴に砂が入りにくい)
・リュックカバー
・頭痛薬
・栄養剤
・ウィダーインゼリー
・マヨネーズ(高カロリーの非常食)
・ブドウ糖
・ポッカレモン100(喉の乾きに1、2滴)



持って行ったが使わなかったもの

・耳栓(忘れていた)
・健康保険証のコピー、バンドエイド、消毒薬(使わなくて幸いだった)
・キャンプ用ガス、バーナー
・野点用茶籠(風が強くてそれどころではなかった)
・カップ麺


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